COLUMNコラム
タイニーハウスに詰め込んだ利便性と美しさ スパイスカレーの面白さを伝える「Pramana Spice」
東池袋の造幣局跡地につくられた「イケ・サンパーク」。単なる公園(広場)としての側面だけでなく、地域の人々の暮らしを豊かにする活動の場としてひらかれた同所には、公園を訪れる人がリラックスして自由な時間を過ごせるようにとタイニーハウスを利用した4つの飲食店が設けられた。その一つが、南米旅行をきっかけにカレーづくりに目醒めたという加藤伊織さんが営むスパイスカレー店「Pramana Spice(プラマーナ・スパイス)」。Clear-design(クリアデザイン)・佐藤との出会いは、信頼できる共通の知人の紹介だった。
お会いする前から、人柄に惹かれていた
加藤 ここでお店をはじめるというのは、本当に急な話だったんです。知り合いから突然話がきて、「お金ないけど、どうしよう。どうにかしよう!」という風にはじまりました。
佐藤 あはは、そうでしたね。
自分は「加藤さん」の人柄についてお聞きしていて、魅力が凄い方だと感じていました。ですから“どう見せたいか”の内装デザインよりも、加藤さんの魅力を空間に出せるようにしたいと思いました。僕たちのほうから「ああしましょう」「こうしましょう」というよりも、どんな風にお店をやりたいかをお聞きして、それに対してアドバイスするのがベターかなと。
加藤 「タイニーハウス」という特殊なカタチなので、設備の配置や施工も普通とは違うやり方になるのだろうとは思っていました。実は、何をこうしたいって僕のほうからも特に伝えていないと思うんですよ。プロにお任せするのが一番と思っていましたから。
佐藤 「タイニーハウス」は近年日本でも広まっている建築様式の一つ。今回はその店舗ということで、使い勝手がかなりコンパクトになることは確実。さらに、客席が外になることも通常の飲食店との違いでした。
加藤 そうですね。
佐藤 いわゆる、テイクアウトの店舗やキッチンカーにも近いけれど、公園というロケーションから実店舗の周りでも飲食できる。テイクアウトとイートインのちょうど中間のような形態のお店ということで、どう食事してもらいたいかのイメージを互いによく話したと思います。
加藤 そうでしたね。あとは、どちら側から注文を取るかなどのオペレーションも細かく相談させて頂きました。もともと間借りで8年ほどカレーを提供していたことはあったけれど、実店舗は初めて。ゼロから作り上げることに対して、とてもワクワクしていました。
利便性と見栄え。タイニーハウスに求められること
佐藤 キッチンの位置には特にこだわりましたよね。排気の関係なども考えて。
加藤 利便性とオープンキッチン的な要素を両立させたいと思いました。中を使いやすくすることはもちろん、キッチンが外から見えることも考えて、見られても恥ずかしくないようにしたくて。
佐藤 今回のプロジェクトでは、厨房器具を佐藤さんがご自身で揃えられたんですよね。厨房器具って通常であればメーカーがまとめて提案してくれることが多いのですが、加藤さんの場合は一つずつLINEで情報共有(笑)
加藤 「今、こんなの見つけました!」ってね(笑)
佐藤 加藤さんが見つけられたキッチン道具に合わせて、必要な設備を調整する。例えば五徳に合う台にもこだわっていて、カレー鍋の高さと加藤さんの身長を考慮して設計してあります。
加藤 そうそう!そうして頂きました。調理場、そこがメインですものね。
加藤 ちなみに、本当にお金がギリギリで工事費用が捻出できないから壁も自分たちで塗りましたね。最後は結局佐藤さんに直していただきましたけれど。
佐藤 そんなこともありましたね(笑)「自分でやってみたい」というお客様は多いのですが、本当に最後まで自分で塗ろうとした人ははじめて。僕はそれが嬉しくて。
加藤 本当ですか。塗装、すごく楽しかったですよ。
佐藤 自分の手で細部を仕上げることやその姿勢、そういうのが好きなんです。だから、最後に補修が必要になるようだったら自分がカバーしようと思っていました。
加藤 そうなんですね、嬉しいな。「うーん、これはマイナスですねー。やってもらったんですけれど、プラスにはなっていませんね」というのが壁を見た佐藤さんの感想(笑)。佐藤さんはいつもお店のことを思って、正直な言葉をかけてくださる。だからこそ僕が思いっきり自由にできたというのはあると思います。
佐藤 加藤さんはご自身であれこれできてしまう器用な方。さらには顔が広い。自分で友人に声をかけたらできちゃうんじゃないかって思うくらい人のつながりがあって、色んな人に好かれる方。その中で、クリアデザインが一緒にお仕事をさせていただけたことはとても嬉しく思っています。
加藤 プラマーナ・スパイスは、色んな人のつながりがあってできたと思っています。それまでは自分一人で仕事をしていましたが、今回はちょっと無理かなと思って。やっぱり、プロに任せてよかったです。
一期一会の変化を愉しめるスパイスの魅力
佐藤 加藤さんのカレーは、衝撃的かつ超うまい。いつも変わったカレーを出していますよね。
加藤 そうですね。でもここ最近は、あんまり攻め過ぎてもよくないなと思うようになりまして。特に今回は「公園」というメジャーな場ですから、オーソドックスなカレーの方が好まれています。
佐藤 なるほど。“攻めたカレー”も僕は大好きでしたよ。
加藤 今もネーミングを分かりやすくしているだけで、実はめちゃくちゃ変わったカレーというのもあります。強い食材だけを活かしてスパイスをほとんど使用しないスパイスカレーや、塩と米のとぎ汁だけでつくったカレーなど。
佐藤 へー、面白い!それをすべてここで仕込んでいるんですよね。
加藤 そうです、ここですべてつくることができる。カレーとスナック、それからドリンクのオーダーも増えていて、チャイにもこだわっています。
佐藤 ここでしか飲めないチャイなんだろうなと思いました。ところで、加藤さんはどうしてカレーの道へ?
加藤 きっかけは一人旅で訪れたペルー。ゲストハウスのような宿舎のシェアキッチンでインド帰りの日本人がカレー講座を開いていて、それに参加したことが最初でした。
佐藤 ほうほう。
加藤 スパイスカレーはタイミングをずらして次々とスパイスを加えていく。すると香りがどんどん変わっていくんですよ。それに、すげーって感動して。それまでスパイスカレーは出来上がりを食べたことしかありませんでしたが、つくっている行程にも魅了された。つくっている人が一番楽しい料理なんじゃないかと思いました。それからスパイスの勉強に色んなところへ行きました。
佐藤 なるほど、ご自身の経験がベースにあるんですね。
加藤 カレーやスパイス料理は没入感を得られる食べ物だと思っています。僕は山登りも趣味なのですが、カレーを食べている時というのは、それこそ山に登っている時のように気持ちがいいと思うんです。
佐藤 加藤さんのつくるカレー、とっても自由な食べ物のように感じます。何かルールのようなものはご自身でお持ちですか?
加藤 南インドや東インドでふるまわれている“米と一緒に食べるカレー”の手法から外れないようにすることを一つの制約としています。そのほかは自由。食材は日本のものが多いですね。季節に合ったものや、出かけた先で出会ったものなど。
佐藤 今日のカレーもやっぱり“攻めた”カレーだと思います。期待を超える美味しさ!
加藤 そう言っていただけるとすごく嬉しいです。佐藤さんをはじめ、クリアデザインの皆さんは、僕のような超初心者も楽しませてくれる内装デザインのプロ。足並みを揃えてくれるというか、精一杯話を聞いて応えてくださいました。屋号すら決まっていないところからのスタートでしたから。
佐藤 楽しかったですね、その辺も。とっても魅力的な方と出会い、その方のお店づくり関われたこと、自分は誇らしく思っています。
加藤 ありがとうございます。裏切らず、真剣にやっていかないとと思いますね。